家族をデイケアに送り出すときに「行きたくない」と言われたことはありませんか?なぜ行きたくないのか、利用者が感じる不安や原因と向き合う方法について解説します。
1. はじめに:なぜ「デイケアに行きたくない」と感じるのか

介護やリハビリの一環として利用されるデイケア(通所リハビリ)は、身体機能の維持や社会的つながりの場として、とても重要な役割を担っています。
家族が仕事をしていたり、子供のお世話があったり、いろんな理由があって日中はお世話ができない事情があるときも、デイケアは非常にありがたいサービスですよね。
しかし、実際に通っている家族からは「行きたくない」「家にいたい」と言われることがあります。
気まぐれやワガママもあるかもしれませんが、そこの背景には心理的・身体的な不安や抵抗感などが隠れていることも少なくありません。
2. デイケアを嫌がる主な原因や心理状況

最初は笑顔で出かけてくれたのに、しばらく経ってから急に「デイケアに行きたくない」と言い出すケースもあります。
朝、急に「行きたくない」と言われると、家族としては「なんで急に?」「今言われても困るよ」と戸惑ってしまいますね。
デイケアを嫌がる主な理由と心理については、次のようなケースが考えられます。
原因① 環境の変化に不安がある
デイケアに行くと、利用者は家族の元を離れて施設で数時間過ごすことになります。
家にいるときは家族がいる安心感でのんびり過ごせますが、他人しかいないデイケアでは環境の変化に不安を感じる利用者もいます。
知らない場所へ連れて行かれ、知らない人に囲まれて、自由に動けない体では1人で家に帰ることもできない。
そんな状況に不安を感じて「デイケアには行きたくない」「家にいたい」という発言に繋がってしまいます。
原因②人間関係でストレスを感じている

デイケアでは他の利用者やスタッフとの交流が日常的に行われています。長く同じ施設に通っていると顔なじみも出てきますが、いつも同じメンバーだとは限りません。
もともと人付き合いが苦手だったり、初対面の人と話すのは気後れする性格だったりすると、他人と一緒に過ごすことにストレスを感じてしまうこともあります。
さらにその人付き合いの中で、「話が合わない」「喧嘩になる」「嫌われている」「仲間外れにされている」「居場所がない」と感じると、通所そのものが心理的な負担になってしまうことも。
この場合はデイケアのサービスを受けるのが嫌なのではなく、デイケアに行って人と触れ合うのが嫌だという気持ちが生まれて「行きたくない」と考えてしまうようになるのです。
原因③体調や体力的な問題
年配者や体が不自由な人の場合は体調の問題も影響します。デイケアに行くのが体力的に「しんどい」と思うと、家にいたくなるのも無理はありません。
デイケアに行くためには決まった時間に起きて、身支度をして、お迎えを待たなくてはいけません。
身体状況や年齢にもよりますが、デイケアに行って帰ってくるとグッタリ疲れ果ててすぐに寝てしまうような状況であれば「行きたくない」となることもあります。
原因④気力が湧かない

特別な事情がなくても、気力が湧かないというときもあります。学校や仕事と同じで、なんとなく行きたくないことは誰でも経験があるのではないでしょうか。
昨日は笑顔で行ってくれたのに、今日は「行きたくない」とそっぽを向いてしまうというのも、感情を素直に表現しているだけで何もおかしなことではありません。
行かなければ家族に迷惑をかけると思って頑張っていた場合は、プツンとその緊張の糸が切れてしまうこともあります。
原因⑤できないことが多くてツラい(羞恥心)
デイケアは利用者の身体状況に合わせてリハビリを計画して実行してくれますが、新しいプログラムがあったり、体調が悪かったりすると、うまくできないこともあります。
もちろん施設の職員さんやリハビリ療法士さんにとっては日常的なことなので、それを責めるようなことはしません。
しかし本人はそんな状況に羞恥心を感じてしまい、「できないことが多くてツラいから行きたくない」と考えてしまうことがあるのです。
リハビリをしてもなかなか成果が出ないときは、「リハビリをしても意味がない」「意味がないのにデイケアなんか行きたくない」と考えてしまう気持ちもよく分かりますね。
原因⑥周りの人と自分を比べてしまう(自信喪失)

デイケアに行くといろんな人がいますが、周りの人と自分を比べて自信を失ってしまうこともあります。
言葉にはしなくても「みんな立って歩いているのにどうして自分だけ…」「なぜ自分だけ両手が使えないんだ…」と考えてしまうのです。
誰かを責めることもできず、自分が情けなくなってしまい、悲しくなるから「デイケアには行きたくない」というケースもあります。
原因⑦「行かされている」という抵抗感(自尊心の問題)
体は不自由でもまだまだ気持ちが元気な人の場合は、「デイケアに行かされている」という抵抗感がある人もいます。
「自分がいたら邪魔だからデイケアに行かせるのか」「1人では何もできないと思っているのか」という苛立ちや反発心があって、それが原因で頑なにデイケアを拒んでいるのかもしれません。
家族との関係が良好な場合でも、思い込みや羞恥心から自尊心が傷つくと、心のケアが必要になる場合もあります。
3.「デイケアに行きたくない」と言われたときに家族や支援者ができる対策

「デイケアに行きたくない」と言われると、家族はとても戸惑いますね。しかし行きたくないというのを無理に行かせてしまうと、信頼関係は破綻してしまいます。
ここからは家族や周りの支援者ができるサポートについて考えてみましょう。
対策① 無理に通わせずに気持ちを受け止める
「デイケアに行きたくない」と言われたときは、まずその気持ちを受け止めてあげることが何よりも大切です。
問答無用で「行かないとダメ」「困るよ。頑張ってよ」と突き放すのではなく、少し落ち着いて話を聞いてあげた方がいいでしょう。
きちんと向かい合って受け止める態度を見せると、相手も素直に理由を話してくれるかもしれません。
朝のバタバタしている時間にそんな暇はない!と思うかもしれませんが、その後もずっと「行きたくない」「頑張って」というやりとりが続くのはお互いにストレスが溜まってしまいます。
「行きたくない」というのは本人からのSOSのサインです。少し大変かもしれませんが、きちんと話を聞いてみてください。
対策②利用時間を短くする
行きたくないと感じている本人にとって、朝から夕方までのデイケアはとても苦痛です。もし可能であれば気持ちが落ち着くまでは利用時間を短くするのも1つの対策になります。
いつも長時間の利用はツラくても、「今日は短時間だから行ってみるか」と前向きな気持ちになることもあるでしょう。
週の初めは利用時間を長くし、疲れが溜まってくる週の後半は短くするというのもおすすめです。
リハビリやデイケアの通所プランをケアマネさんなどと相談し、利用時間を工夫することで解決できる場合もあります。
対策③興味のあるイベントにだけ参加してみる

デイケアで「リハビリをするのが嫌だ」など原因がはっきり分かっているときは、興味のあるイベントだけ参加するのも1つの方法です。
利用したときに「楽しかった!」という経験が増えると、ネガティブな印象は和らぎます。
「前は楽しいことがあったからまた行ってみようかな?」という気持ちになると、デイケアも笑顔で通えるようになるはずです。
対策④施設との連携で環境を調整する
「デイケアに行きたくない」と言われたときは、話をして原因を特定し、その後は施設にも連絡して環境を調整することが必要です。
嫌がる理由にもよりますが、人間関係のトラブルやストレスが原因だった場合は、部屋を分けたり食事の場所を変えるなどして対応してもらえることもあります。
すべて対応してもらえるかは分かりませんが、本人のストレスを少しでも減らしてあげたいときは、施設にそうして協力してもらうことが大切ですね。
対策⑤他の施設の利用を検討してみる

問題が解決できそうにないときは、他の施設の利用を検討してみるのもアリかもしれません。
住んでいる地域に1つしか施設がない場合は難しいですが、通える範囲に複数の施設がある場合は、1つにこだわる必要はありません。
人間関係などはまた最初からになってしまいますが、心機一転スタートすることで楽しくデイケアに通えるようになることもあります。
ケアマネさんがいる場合はぜひ相談して、検討してみてください。
4.「デイケアに行きたくない」と言う家族に対する言葉かけの例

実際に「デイケアに行きたくない」と言われたときの適切な言葉かけの例について紹介します。本人の自尊心を傷つけないように、しっかり気持ちを受け入れて共感してあげるのがポイントです。
言葉かけの例①「無理に他の利用者さんと話さなくてもいいんだよ」
人間関係にストレスを感じている場合は「無理に他の利用者さんと話さなくてもいいんだよ」と言ってあげると、本人はとても安心します。
他人に合わせて気を遣いながらコミュニケーションを取るのは大変なことなので、この一言があるだけで「自分らしくいていいんだ」と肩の力が抜けてホッとするでしょう。
言葉かけの例②「行きたくない日もあるよね」

「行きたくない」という気持ちを全面的に受け入れて「行きたくない日もあるよね」と共感する言葉も効果的です。
気持ちを理解してくれたという安心感が出て、なぜ行きたくないのか素直に話してくれるようになります。
急に気持ちを変えるのは難しいかもしれませんが、家族としての信頼感が高まるのは間違いありません。
言葉かけの例③「体調が悪かったらお休みもできるからね」
体調や気力の面でツラいと感じている場合は「体調が悪かったらお休みもできるからね」と言ってあげるのがいいですね。
絶対に行かなければいけないと思うと追いつめられてしまいますが、どうしても無理なときは休めると分かると、気持ちが楽になります。
言葉かけの例④「言いにくいことがあったら代わりに伝えるよ」

施設で困っていることや嫌なことがあっても、職員さんに言える人ばかりではありません。
「言いにくいことがあったら代わりに伝えるよ」と言ってあげると、行きたくない理由も素直に話してくれるようになるかもしれませんね。
言葉かけの例⑤「今日はちょっとだけオシャレな恰好で行かない?」
深刻な理由はないのに何となく行きたくないというときは、「今日はちょっとだけオシャレな恰好で行かない?」などと提案してみるのもおすすめです。
いつもと少し違うことをすると気分が変わり、オシャレな自分を見てほしいというポジティブな感情が生まれます。
5.まとめ:気持ちに共感してあげることが大切

デイケアに「行きたくない」と感じるのは、環境の変化や不安、体調の変化、その日の気分など、さまざまな原因が考えられます。
笑顔でデイケアに通ってほしいときは、まず気持ちに寄り添って共感し、ストレスになっている原因を改善してあげることが大切です。
家族としての信頼関係も大切にしながら、少しずつ「行ってみようかな」という前向きな気持ちが芽生えていくといいですね。



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